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嵐を呼ぶ男

ある夜。いつものように、そろそろ店じまいだという頃。

どかどかと階段を上る音。
またか。たまにいるんだよね。シャッター半分占めて、灯り消してるのに上がってくる酔っ払い。

店主はよく吼える番犬の勢いで飛び出した。

と、同時に大きな喜びと驚きの混じった二つの歓声が響いた。

「いっちゃん!」「まこっちゃん!」

いっちゃんこと市川君は木曽の御嶽山の山小屋、五の池小屋の主。
店主がまだ若かりし頃、人生に悩み己はどう生きたらいいのか模索していた頃(確か、このフレーズ前にも書いたような?)。
海外を放浪するだけじゃなく、国内も放浪していた。
北海道で昆布漁したり、熊本でカウボーイやったり、岐阜の旅館で客が残した飛騨牛をつまみ食いしたりしていたそんな頃、いっちゃんに出会った。
いっちゃんも親元飛び出し、人生を模索していたが、店主の様子を見て心底心配してくれた良い人だ。

そんな彼が山小屋の主となってもう11年目。
山小屋は夏だけなので、彼が山小屋に拘束されるのは数ヶ月だけ。
冬から春はスキー場でインストラクターやったり、工事現場で肉体労働したり、テレビ局の取材受けたり色々やってる。でも、カミサンと子ども三人をしっかり養っている怖いもの知らずのシンプル男だ。

毎年夏に、青海波の店主は、御嶽山に一升瓶とギターを抱え、スニーカーで登る。
毎年冬に、五の池小屋の主は、原っぱ村にハイエースやバイクで、寝袋持ってやってくる。
そしてどちらの時も二人で朝まで日本酒を飲み、真剣に語り、仕舞いにはギターで歌を歌う。
ところが、昨年に夏は店主は時間がとれず登れなかった。
そして、今年の冬、いっちゃんも来なかった。

その彼がいきなりやってきたのだ。
「どうしたの?」と聞くと、「泊めて。今夜泊めて」と言う。


さあそれからが長い。長い長い夜の始まりだ。

なんと彼は念願の山小屋増築を完成させ、今度は山小屋で昼はカフェ、夜は居酒屋やろうというのだ。
店主は勿論いっちゃん自身。
簡単に山小屋で居酒屋というが、ありそでなかったのもうなづける。
なにしろもの凄く不自由不便アナログな世界だから。
トイレだってもちろんポットンで、使用した紙はトイレに落とさず別の箱に入れなければならない。トイレットペーパーだって貴重だし水も貴重品。(だから店主は持参する)
なんにもないところにモノを揃えるのは、ヘリコプターと人間の足のみ。
すべてを担ぎ上げ、登山と下山を繰り返すのみ。
そんなことに気づかない登山者は、金払えば冷えたビールが飲めると思っているが、これも担ぎ上げた何キロの中の一つなのだ。
ましてや居酒屋となると、酒。

しかし、天性のパワー男は、真っ白な歯を見せ、まぶしい笑顔で「それはなんでもないよ」と言い切った。
そして、どんな店にするか、今朝思い立って、雑誌の表紙になった東京の居酒屋に行ってきたという。
店の照明、店内デザイン、コンセプト、カウンターの仕様、店のぬくもり感。
店を作るということに関しては、我らも99%手作りなので話は尽きない。

結局、朝5時になった。
一時間半仮眠して、朦朧とした頭で市場へ行き、仕入れ、仕込みをした。




嵐を呼ぶ男は、いつの間にかいなくなっていた。


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コメント

[C100]

楽しそう♪
  • 2011-05-14 13:52
  • くるりこ
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  • 編集

[C101]

いっちゃん、会いたかったよう。
  • 2011-05-15 17:12
  • kiku_u
  • URL
  • 編集

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